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端午の節句と山姥。
  牛方と山姥。
    山姥の日本の位置づけは、山の神の末裔、または巫女なのですが、神は神でも、鬼に相当する神の場合もあります。「牛方と山姥。」(馬の場合も有り)に登場するのが、鬼に相当する山姥です。
  「牛方と山姥。」 
 
  牛方の勘助は、沢山の塩鯖(しおさば)を牛の背に積み、山向こうの大きな村へ売りに行きました。その途中、高い峠をのぼりきった所で勘助は一人のお婆さんに会いました。
「勘助、その塩鯖を一匹くれ。」
勘助はなぜ自分の名前を知っているのかといぶかりましたが、仕方がないので、荷の中から塩鯖を一匹抜き出すとお婆さんに渡しました。お婆さんは、嬉しそうに塩鯖を持つと、頭からガブリと噛みつき、ガブリガブリとしっぽの先まで食べてしまいました。

  お婆さんはべろりと口をなめ回すと、「勘助、塩鯖をもう一匹くれ。」と言いました。勘助はお婆さんが山姥だと気がつきました。そして荷の中から塩鯖をもう一匹出すと、山姥の前にほうり、一目散に逃げ出しました。
  山姥は勘助の投げた塩鯖をガブリと一口に食べてしまうと、「勘助!塩鯖をくれ〜!」と叫びながら、勘助を追いはじめました。勘助は塩鯖を投げながら逃げましたが、山姥は塩鯖を食べては勘助を追いました。そのうち、塩鯖はすべて山姥に食べられ、無くなってしまいました。
  すると山姥は、「勘助!その牛を喰わせろ! 喰わせねぇとお前を喰っちまうぞ!」と怒鳴りました。勘助は恐ろしくなって牛を置いて逃げ出しました。後ろの方で、牛が鳴き、メシメシッ!ボキッ!ゴグッ!と、大きな音が聞こえて来ました。
  このままでは自分も食べられてしまいます。勘助は死に物狂いで走って走って逃げました。後から「勘助!待たぬか〜!」と恐ろしい声が聞こえて来ました。勘助は逃げて逃げて、大きな池の側まで逃げてきました。
  山姥の声がすぐ側まで迫ってきました。勘助は慌てて池の側の木にのぼって隠れました。山姥は息をはずませながら走ってきましたが、池の側に来ると鼻をクンクン鳴らしながら、勘助を探しました。
  勘助の登った木の下には葉っぱが無く、勘助の姿は池の水に映っていました。山姥は、きっと振り向くと、池を睨みました。勘助はしまった!と思いました。
「ヒヒヒヒヒ、そこにいたのか、勘助。 今、取り喰ってやるぞ。」
山姥はそう言うと走り出しました。山姥に喰い殺される!勘助はそう思いました。しかし山姥は池の中に飛び込みました。
「勘助!どこに逃げた? 勘助!」
山姥はそう叫びながら池の中を探し回ったのです。勘助は木を降りるとそっとそこを離れ、また走り出しました。

  山を随分下った所で勘助は一軒の家を見つけました。「ああこれで助かった。 山姥に喰われずにすんだ。」と家の戸を叩きました。しかし返事がありません。勘助は黙って家の中に入り、台所のすみに隠れました。
  そのうち誰かが家に帰って来ました。 勘助は助かったと思いました。しかし、それは山姥だったのです。ここは山姥の棲家だったのか。勘助は慌てて天井にのぼり隠れました。
  山姥は家の中に入ると、「せっかく牛方を喰ってやろうと思っておったのに逃げられてしもうた。」と言いながら、囲炉裏の火をおこしました。
  そして餅を網の上において焼きはじめました。勘助はいつ見つかるかとビクビクしていましたが、山姥はそのうち、コクリコクリと居眠りをはじめました。餅の焼ける良い匂いがプ〜ンと天井裏にも漂ってきました。勘助は天井裏に積んであった茅を一本取ると、囲炉裏の上にある餅に突き刺し、餅をすっかり食べてしまいました。
  すると、山姥が目を覚まし、餅が無くなっている事に気がつき、「誰がわしの餅を喰った?」と怒鳴りました。
  勘助は鼠のマネをして、「火の神、火の神。」と言いました。
  山姥は火の神が食べたなら仕方ないと今度は鍋を持ってきて、甘酒を暖めはじめました。山姥はそのうちまた居眠りをはじめました。
  勘助は茅を鍋にのばすと屋根裏から甘酒を全部吸ってしまいました。すると山姥が目を覚まし、甘酒が無くなっている事に気がつき、「誰がわしの甘酒を飲んだ?」と怒鳴りました。勘助はまた鼠のマネをして、さっきと同じように、「火の神、火の神。」と言いました。
  山姥はまた火の神の仕業か、よくよくついておらん、こんな日は早く寝た方が良いと、ぶつぶつ言いました。
  そして今日は石の空櫃(からと)で寝ようか?木の唐櫃で寝ようか、石の唐櫃は冷たいから、木の唐櫃にしようと中に入ると蓋を閉め、グゥグゥ大きないびきをかいて眠ってしまいました。
  勘助は屋根裏から降りると山姥の寝ている唐櫃の上に石臼やら、瓶やら、重たいものを置いて中から開けられないようにしてしまいました。そして囲炉裏に鍋を掛け、湯をぐらぐら沸かしはじめました。そして、錐(きり)を持ってきて、唐櫃の蓋に穴を開けはじめました。
  山姥はウトウトしながら、「ああ、キリキリ虫が鳴いとるの。」と言うとまた眠ってしまいました。勘助はその穴に湯を注ぎ込みました。唐櫃は中からドンドン叩く音が聞こえてきました。
  勘助はかまわず湯を注ぎ込みました。そして唐櫃に一杯になり、すき間から湯が流れ出しはじめると、中からは何も聞こえなくなりました。

  勘助はその場にへたり込みました。 
「潮鯖も牛も喰われてしもうた。 どうしたものじゃろうの。」勘助は困り果ててしまいました。あたりには湯気がのぼっていました。その向こうにぼぅっと絹やら小判やらいろんな宝物が見えました。
「ああ、これでまた牛を買って商売が出来る。」
勘助は宝物を持って山を降りて行きました。

             「牛方と山姥。」


   
    「牛方と山姥。」は逃鼠譚の一つで、池の中の牛方をおって山姥が溺れて死んでしまう型のものと、後半、山姥の家で、今回再話した型のもの、 山姥の家に娘がいて、協力して山姥を殺すものとの型があるようです。
  このお話では呪的逃走の形は取っていませんが、鬼が追いかけてきて、食べ物などを投げ、または投げたものが食べ物などに変化し、鬼がその食べ物を食べている間に逃走する型は「三枚のお札。」等のいろんなお話に見られます。
  日本神話中では、死んだ伊邪那美命を連れ帰りにいった伊邪那岐命が、黄泉平坂を、黄泉醜女、八雷神、伊邪那美命に追われる、というくだりがあり、この部分が呪的逃走譚の原型となります。

  このお話での山姥は峠の神様で、峠の神様に手向けをする信仰がお話の元となっているようです。牛方は峠の神様に手向けをせずに、峠の神様の怒りを買い追いかけられ、本来の神様の姿である山姥の家にいる娘によって救われる、と考えられるかも知れません。

  ちなみに娘が登場しない方の型が圧倒的に多く収集され、原型と見られています。
       絵本。
 
           
  うまかたやまんば
おざわ としおさん再話、赤羽 末吉さん画の絵本です。主人公が天井に登ってから、ヨコ開きの絵本が、縦開きになる所が楽しい。やまんばが怖い。

  馬方と山姥
陸前・岩代の昔ばなし集です。録音テープによる書き起こしと言う事で、方言、語りがそのまま再現されています。どちらかと言うと資料のような。