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十月ー亥の子突きと動物のお話。


 十月ー亥の子突きと動物のお話。 おくんち。 亥の子祭り。 亥の子突き。 
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 しっぺい太郎の猿神退治。 日本の猿神伝説。 中国の猿神伝説。

 
  中国の猿神伝説。
    日本の猿神伝説にあたるものを、中国では「猴娃児娘(ほうわるにゃん)型故事」と言うそうです。
  すでに中国唐の時代には、大猿が女人をさらう、という話は一般化していたようです。一番古いとされるものは、晋の張華(232-300)の「博物志」三「異獣」中の「馬化」。「馬化」は蜀の山南にある高山に生息する猿に似た怪物で、「身長七尺、人間のように歩き、走るのが早い。道を行く婦女で綺麗な者を伺い、これを盗んで去るが、人間は気がつかない。」と書かれています。
  猴(こう)はアカゲザルを意味するらしく、中国の伝説の中の猿は女性をさらったり、子供を産ませたりするもの、とされています。
  もう一つの特徴が、生まれた子供がある一族、多くは楊(よう)という姓の祖先とされる所です。つまり一族の素性を語る始祖説話の意味を持っているのです。

  「白猿伝。」
 
  西暦五百三十五年〜五百四十五年頃、南朝の梁の武帝は平南将軍、蘭欽(りんきん)と別動軍の武将、欧陽糸乞(糸辺に乞と書いてこつ、おうようこつ)を南方遠征に派遣しました。
  蘭欽将軍と欧は桂林(現在の広西チョワン族自治区、武宣県西南近辺)まで進みました。欧はあたりの部族をことごとく平定し、険阻な奥地にまで進軍し、そこで陣を休めました。
  欧は遠征に妻、鳳仙(ほうせん)を伴っていました。鳳仙は肌のキメが細かく白く、とても美しい女性でした。
  その地の部族の長が挨拶に来た時の事です。欧とその横に座る欧の妻を見た長は、非常に驚いた顔をしました。不審に思った欧は、「どうされた? 我が妻に何かご不信がおありか?」とたずねました。長は、非常に困った様子で、しばらく考え込んだ後、欧に答えました。
「この地には神がおり、若い女をさらっていくのです。特に綺麗な女は必ず狙われるのです。どうぞ、奥様に護衛をつけ御守りください。」
欧は鳳仙と顔を見合わせました。
この地の女は皆、男と同じ格好をし、髪を隠し、ほおかむりをしていたのです。部下に調べさせた所、長の言う事は本当で、もう何十人もの若い娘が消え去ったと、このあたりの者はみな同じように話しました。
  欧はすぐさま家の周囲に護衛をつけ、鳳仙を屋敷の奥深くの部屋に隠し、妻の回りに、剣を持った女剣士を十余人、見張りにつけました。そして妻の部屋の回りに何重にも兵士を置き、自らも剣を携え、鳳仙の側に陣取りました。
  夜になって強い風が吹き、次第に空が真っ暗となりました。一晩中、大風が吹き荒れ、戸をガタガタと叩き、屋敷を揺らし続けました。欧は鳳仙とじっと夜が開けるのを待ちました。午前三時頃、ふっと風がやみ、あたりが静かになりました。欧は鳳仙とあたりを見まわしました。その静けさはどこか異様でした。人の気配、息遣いさえ消えていたのです。
  突然、欧は眠気に襲われ、目の前が真っ暗になりました。そしてハッと気がつくと妻の姿が消えていたのです。
  欧は驚いて外に出ると、部屋の回りには女剣士が眠っていました。要所要所に配置した兵士も折り重なるように眠りこけていたのです。不思議な事に部屋も屋敷のどこも、すべて鍵がかかったままで、いったい妻がどう連れ去られたのかもわかりませんでした。欧は外に出て追おうとしましたが、あたりは灯さえ飲み込む深い霧に包まれ、何もかも朦朧として一歩も進む事が出来ませんでした。


  夜が明けると、眠っていた者も目を覚まし、霧も消えて行きました。欧は妻を追い求め、部下を四方に放って探索を続けました。自分が鳳仙を守りきれなかった事に腹が立って仕方ありませんでした。欧は自ら深い山に入り、とうてい人の行けないような所も、くまなく探しました。
  欧は妻を何ヶ月も探し続け、屋敷から百里も離れた竹やぶの中から、鳳仙の履いていたユリの刺繍の靴を見つけました。その小さな靴は、雨に濡れ汚れて痛んでいましたが、間違いなく妻の物でした。
  竹やぶの向こうには切り立った険しい山が累々と広がっていました。欧は鳳仙の靴を握りしめると必ず妻を救い出すと奮い立ちました。

  欧は屈強な兵士を三十人選抜し、武器と食料をもって、山の中に分け入って行きました。岩陰で夜露をしのぎ、食事を取り、十日あまり進んだ時、山の中にひときわ大きな山を見つけました。その山の回りには、川のように湖が広がっていました。欧と部下はいかだを作り、その湖を渡りました。
  欧達は湖をわたり終えると切り立った岩をよじ登りました。 そしてその崖の上には、青々とした竹が生い茂り、庭園のように岩が並び、その間に見た事の無いような花が咲いていました。
  欧達は高い山の上に広がる見た事もない光景に不思議に思いました。岩の門をくぐると、足下に絨毯のような緑のしとねがひろがっていたのです。 そして、その向こうには、女達が笑い声をあげながら行き来していました。
  欧はその中に妻がいないかと走りよりました。

  女達は、突然現れた欧に驚いた様子で、その場に立ち止まりました。欧は女達の中に鳳仙がいないのを知ると、うつむいてしまった。
  女達は欧を見つめ、「あなたはどうしてこんな所に来たの?」と、訪ねました。欧は女達に妻が何者かに連れ去られ、妻を探して分け入って来た事を話しました。
  女達は顔を見合わせ、「あなたの奥様はここにいらっしゃいます、ついていらっしゃい。」と言うと女達は欧を岩屋の奥へ連れて行きました。岩屋の奥は広間のように広がり、いくつもの部屋がありました。
  その中の一つに欧の妻は休んでいました。
  「鳳仙!」
  鳳仙は振り向き、欧を見つけると涙をぽろぽろこぼしました。欧は鳳仙の側に駆け寄り抱きしめました。女達も部下も、やっと会えた二人を、ただ見つめていました。
  「すぐにここから逃げよう。」
  しかし鳳仙は首を横に振りました。
  「あのものは人ではありません。 逃げる事など出来ないのです。」
  鳳仙はそう言ってうなだれました。
  回りにいた女達も顔を覆い泣きはじめました。欧も部下もどうしていいのかわかりませんでした。女達のまとめ役と思われる女が話しはじめました。
  「私たちの中には、十年以上も長い間、ここに捕らわれているものもおります。あのものは一日に何千里も駆け、不思議な技を使います。何百人もの人間が武器を以てしてもかなうものではありません。幸い、まだ戻ってきていないから急いでお逃げください。」
  「そんなことは出来ません。 目の前に妻がいるものを、勝てないからと言う理由で、置いて逃げる事など出来ません。」欧は鳳仙の手を握りしめて言いました。
  女達は顔を見合わせました。そしてしばらく相談しあうと、決心したように欧に言いました。
  「あのものは酒が好きで、酔うと必ず自分の力を見せびらかそうと、五色の絹の紐で寝台の上で手足を縛らせ、その紐を引きちぎって見せます。しかし、以前紐を三本よりあわせたらちぎれなかった事があったのです。絹の紐に麻を隠したら、きっと引きちぎる事が出来ないでしょう。 十日後、麻の縄と美酒、エサにする犬を十匹用意して、正午過ぎに来てください。早すぎないように注意してくださいね。」
  「わかりました。 十日後、正午過ぎ、ですね。」
  欧はそう言い終わると、鳳仙の手を握り、部下と共に山を下りていきました。

  それから十日後となりました。
欧と部下三十人は約束通り、麻紐とこおばしい酒、犬を連れ、正午過ぎに山を登ってきました。
  鳳仙と女達は欧達を迎え準備をはじめました。犬を竹の林の中に隠し、お酒の壺を花の中に隠しました。そして、欧達は岩の穴の中に隠れると、怪物が帰ってくるのを待ちました。
  
  午後になり、しばらくすると、空に風が舞い、何か白いものがひらひらと降りてきました。それは、白い髭を生やした王侯貴族のような男でした。女達がその男を出迎えましたが、男は暗く沈んだ顔をしていました。
  「どうなされたのですか?」一人の女が聞きました。
  その男は、「うむ、わしは山の神に訴えられた。 死刑の宣告を受けるかも知れぬ。」と言うと剣を二振り取り、稲妻のように舞い踊りました。剣は岩を裂き、空を割って、大きな音をゴロゴロと響かせ、光の円を描きました。男はひとしきり、舞い踊ると剣を置き、くんくんと鼻を鳴らしました。
  「犬の匂いがする。」
  すると女達は待っていたように、
  「はい。山犬が迷い込んできたのです。」と、ささやきました。
  「ほう、犬か。」
  男は急にうれしそうな顔をすると、鼻を鳴らして犬の匂いをかぎながら、探しました。そして犬を見つけると、身を踊らせてつかみかかり、手足を引き裂いて肉を喰らいました。その姿は、すでに人のものではありませんでした。
  女達は、酒の瓶をとり出し、その怪物の側に置きました。怪物は犬を次々と引き裂き、肉を喰らい、血をすすり、酒を瓶ごと飲み干しました。怪物は犬を食べ尽くすと、女達を連れて岩屋の中に入っていきました。
  中から怪物と女達の笑い声が聞こえてきました。
  しばらくすると岩屋の中から女が一人出てきて、欧達を呼びました。欧と部下三十人は剣を抜くと岩屋の中に躍り込みました。中には麻の仕込まれた絹の紐で縛られた怪物がいました。
  その姿は白く長い毛におおわれた大猿で、欧達を見ると歯をむき出して暴れ、縛った岩の寝台がミシミシと音をたてていました。
  「あなた、早く!」鳳仙が叫びました。
  欧は剣を怪物の頭に打ちつけました。しかし、怪物の毛は針金のように強く、体は岩のように硬く、剣をはじきました。欧は剣で何度も打ちつけましたが傷つける事さえ出来ませんでした。部下が剣を振り上げ、欧の加勢をしましたが、剣のはじかれる音がただ響くだけでした。怪物は暴れ、縛っている絹の紐がほつれて、今にも紐を引きちぎりそうでした。
  鳳仙は、燭台が倒れ大きな音を出した時、怪物が慌てて自分のへその下をかばった事を思い出しました。
  「へその下よ!」
  鳳仙の叫びに、欧は剣を怪物に突き立てました。その剣は怪物のへその下にブスリと吸い込まれ、怪物は大きな声を上げて動きを止めました。
  「私は千歳になる今まで、子供が出来なかった。今、私の子が出来たのだ。 だから私の死期が来たのだ。」
  怪物はつぶやくように声を上げました。
  「もし、誰かに子供が生まれたら、大切に育ててくれ。その子は大きくなり、必ず偉大な君主のもとで働き、一族をさかえさせるであろう。」
  怪物の口からは血が流れ落ち、息絶えました。欧は岩屋の屋敷からたくさんの宝物を見つけました。そして、捕まっていた女達を連れ帰り、あるものは我が家へ、あるものは部下のもとへと嫁がせました。

  鳳仙はその後、妊娠し、白い髪の子を生みました。
  その子は聡明な子供で、成長後、王宮で王に仕えたと言う事です。              

                        「白猿伝。」
   
    このお話は、「補江総白猿伝」というお話で、江総の作った「白猿伝」を補う、と言う意味のタイトルです。
  江総は実在の人物ですが、白猿伝を作った事実は無く、この作品の製作者は不明とされています。欧とその子は実在の人物で、作中で猿の子とされる欧陽詢は父の死後、父の友人江総に育てられ、書家、文学者となりました。ただ、その容貌が醜かったため、このような作品が作られたとされています。(妻の名を鳳仙としたのは、自分の考えで加えたものです。)
  作品としては、しっぺい太郎や日本の猿神伝説の源流とされ、また話の型は御伽草子の「酒呑童子」へとつながるものとされています。

  なぜ中国の大猿は女性をさらうのか?というと、その猿達にはメスがいないのだとある説話は説明しています。
  猿神になるには、人間から変身してなる場合と、猿が何百年も生きて猿神になる場合があるのですが、メスはならないのでしょうか?
  少々納得いかないのですが、説話だし、神話だし、中国では猿に気をつけましょう、というお話でした。