トム・ティット・トット(Tom Tit Tot)

「大工と鬼六。」は、日本での収集例が少ないため、外国のお話の再話ではないか?とも考えられています。

その原話と考えられているものの一つがイギリスの昔話「トム・ティット・トット。」です。

トム・ティット・トット。

ロンドンの西のある農家に、リーズと言う陽気でほがらかな娘が住んでいました。

すこ〜し考え無しの所がありましたが、本人は何事も良いように考える方でしたから、いたって幸せでした。


ある時、お母さんがパイを五枚かまどで焼きましたが、でき上がったパイは焼けすぎていて、固くて食べられませんでした。<

「リーズ、このパイを棚を上に乗っけて、さましておおき。そうすりゃ、またもどるから。」

お母さんは、しばらくすると、固い皮がもどって、やわらかくなると言ったのですが、リーズは、良いように考えました。

「パイを食べても、またもと通りにかえって来るなら、何枚食べてもへらないわよね。」

そうです。

リーズはこのパイは食べても戻ってきて一枚も減らないと思ったのです。

リーズはお茶を入れると、パイを一枚、また一枚と五枚全部食べてしまいました。


夕方、お母さんが帰ってきて、「リーズ、パイは戻ったかい?」と聞きました。

リーズはお昼からずっとパイが戻ってくるのを待っていたのですが、まだ一枚も戻ってきていません。


「ううん、お母さん。 まだ一枚も戻ってこないわ。」

「一つもかい?」

「ええ、一つもよ。」

お母さんは困ったように言いました。

「仕方ないわね、やわらかく戻ってなくても、晩ご飯にパイを一つ食べようね。」

リーズはびっくりしました。

「お母さんが戻ってくるって言うから、全部食べちゃったわ!」

お母さんは棚の所にいってパイが一つも無い事にびっくりしました。

「パイは食べても戻ってこないの?」

リーズの言葉にお母さんはあきれてしました。


お母さんはパイを焼くと、その間、糸車を外に出し、歌を唄いながら糸をつむぎました。

 「うちの娘はパイ食べた。

  一日五枚パイ食べた。

  パクパクパクパク、パイ食べた。

  五枚一度にパイ食べた。」

そんな時、ちょうど馬に乗った若い王様が通りかかり、歌を聴きました。

「面白そうな歌だな、もう一度聞かせてくれないか?」

お母さんは、娘の事を正直に歌う事が出来ず、慌てて違う歌を歌いました。

 「うちの娘は糸つむぐ。

  一日五かせ、糸つむぐ。

  クルクルクルクル、糸つむぐ。

  五かせ一度に糸つむぐ。」

王様は歌を聞くなり、「お前の娘はたいしたものだ。一度あわせてもらえないか?」と言いました。

すると、ちょうどそこにリーズが、お母さん、パイが焼けたわ。」と出てきました。

王様は目を奪われました。

何事も良く考えるリーズの屈託の無い笑顔は王様の心を奪ったのです。

王様はすぐさまリーズにプロポーズしました。

 「私は妻をめとらねばならず、よい女性を探していた所だ。

  そなたは美しく、また一日に五かせも糸をつむぐ事の出来る素晴らしい娘だ。

  父も母も重臣達も気に入ってくれるだろう。

一年のうち、十一ヶ月は王妃として好きなだけ食べ、好きなように着飾るが良い。

残り一ヶ月は国の手本として、毎日五かせの糸をつむぐのだ。

もし、出来なければ私はお前を殺さねばならぬが、そなたならできような?」

何事も良く考えるリーズはすぐさま「はい。」と答えました。

母はリーズの顔を見ましたが、いまさら取り消す事も出来ませんでした。

でも・・・、その時になれば、いくらでも言い逃れ出来るし、そのうち王様も五かせの糸をつむぐ事なんて忘れてしまうかも知れない。

リーズは、王様に、にっこり笑顔で会釈しました。


こうしてリーズは王様に嫁ぎました。

王様はリーズを立派な馬車に乗せお城に連れていき、盛大な結婚式を行いました。

リーズは王妃として、大勢のお付きの者に世話をさせ、好きなだけ好きなものを食べ、好きなだけ綺麗な物を身に付けました。

王様はそんなリーズを微笑んで見ていました。

そして何処へ行くにもリーズを連れて行き、二人は幸せな十一ヶ月を過ごしたのです。


十一月目の最後の日、王様はリーズを東の高い塔の中にある小部屋に連れて行きました。

その部屋には糸車と腰掛け、そしてベッドが一つあるだけでした。

 「王妃よ、明日から一ヶ月の間、城の者はもちろん、国中の者に、糸を一日に五かせ紡いで見せるのだ。

  それで、我が国には素晴らしい王妃がいると隣国にも知らせる事が出来る。

  もし出来なければ、私はお前の首をはねなければならん。 頼んだぞ。」

王はそう言うと、リーズを残して出て行き、戸に鍵をかけて行きました。


リーズは驚きました。

糸つむぎの事などすっかり忘れていたのです。

そして、糸つむぎなんて、やった事も無かったのです。

試しに糸車を廻して見ましたが、糸車がカラカラ音をたてるだけで、糸などつむげるはずもありませんでした。

「こんなとこからは逃げだしちゃおう。」

しかし、窓を開けるとそこは目もくらむような高さでした。

風がビュゥウと吹きました。

リーズは慌てて窓を閉めました。


もう、どうにもなりませんでした。

リーズは生まれて初めて泣き出しました。

何も良い方に考える事が無かったのです。

そんな事は生まれて初めてでした。


リーズが泣いていると、窓をトントン叩く音が聞こえて来ました。

振り向くとそこには小さな黒いものが見えました。

リーズが窓を開けると、その黒いものはタッと部屋の中に走り込み椅子の上に座りました。

そいつは長いしっぽで、全身茶色の毛に覆われた小人でした。

「どうして泣いてるんだ?」

そのしっぽのある小人はリーズに聞きました。

リーズはその小人が何なのか、良く考えもせずに答えてしまいました。

 「なら、俺がかわりに糸をつむいでやろう。」

 「ほんと?」

リーズは小人の言葉に顔をほころばせて聞き返しました。

「ほんとさ、朝一番にこの窓の所に来て麻をもらって、夜には五かせ、持ってきてやる。」

「まぁ、うれしい!」

リーズは大喜びしました。

「一ヶ月、」

小人は娘をちらっと見て、言いました。

 「俺はお前の代わりに糸をつむいでやる。

  お前は毎晩三回、俺の名前を当てて見ろ。」

 「名前を当てるの?」

リーズは聞き返しました。

 「そうだ。

  でも、もし一ヶ月たってもお前が俺の名前を答えられなかったら、」

 「答えられなかったら?」

 「お前をもらっていく。」

小人は歯をむき出しにして、ヒヒヒヒヒと笑いました。

その小さな口には牙がチラチラ見えました。

リーズはこの黒い小さなものがなんなのか、良く考えもせず、一ヶ月もあれば、名前なんか言い当てられるわ。

 「ええ、いいわよ。」と、答えてしまいました。

しっぽのある小人は「じゃあ、約束だぞ。」と言うと、またタッと外に飛び出していきました。


次の日、王はリーズのもとへ、食べ物と五かせの糸がつむげるだけの麻を持ってきました。

王が出て行くと、窓にはあのしっぽのある小人が待っていました。

リーズは小人に麻を渡すと、小人はその麻を持ってどこかに消えてしまいました。

そして夕方、つむいだ五かせの糸を持ってやって来きました。

 「俺の名前はわかったかい?」

 「ルーク?」

 「いいや。」小人は首を振りました。

 「ハーン?」

 「い〜や。」小人は黒い尻尾を振りました。

リーズは少し考えて聞きました。

 「じゃぁ、ネッドかしら?」

 「ちがった〜〜〜!!」

小人はクルクル体を回して答えました。

 「あと二十九日だぞ!」

小人はそう言うと、窓から飛ぶように消えました。

リーズは小人の名前が言い当てられませんでしたが、「あと、二十九日あるなら大丈夫ね。」と、嬉しそうに糸を手に取りました。

すると入れ替わるように王様が部屋に入って来ました。

リーズは小人のつくった糸を王様に渡しました。

王様は「今日はお前の首をはねなくてすんだ。 明日も頑張っておくれ。」と食べ物を置いて出て行きました。


こうして次の日も次の日も、朝、王様は麻の束と食べ物をリーズに渡し、しっぽのある小人はその麻を受け取りにやって来ました。

リーズは小人に麻を渡すと、一日中小人の名前を考えました。

そして夕方小人がつむいだ五かせの糸を持ってくると、リーズは小人の名前を言いました。

しかし小人の名前はいつまでたっても当たらず、ただ、夜、やって来た王様に、五かせの糸を渡すだけでした。


もう今日と明日しか小人の名前を当てる機会がありませんでした。

夕方になって、また尻尾のある小人がつむいだ糸を持ってやって来ました。

 「どうだ? 俺の名前がわかったかい?」

小人は尻尾をグルグルグルグル回して、聞きました。

 「ビル?」

 「違うよ。」

 「サムソン?」

 「違うよ〜。」小人は嬉しそうに尻尾を回しました。

リーズは今日最後の名前を聞きました。

 「だったら、ネッド?」

 「違ったぁ〜〜〜!」

小人は尻尾を思いっきり回すと、リーズの顔をのぞき込みました。

 「明日、名前が当てられなかったら、お前は俺のもんだからな。」

小人はそう言うと、タッと外に飛んで消えました。


何事も良い方に考えるリーズも不安になって来ました。

明日、あの小人の名前がわからなかったら、私はどうなってしまうの?そう考えると怖くて怖くて仕方ありませんでした。

そこへ、王様がやってきました。後には侍女がテーブルと椅子を持っていました。

王様はつむいである糸を見ると、部屋の中に侍女にテーブルと椅子を運び込ませ、食事を運び込みました。そして、リーズと食事をはじめました。

 「もう後一日で糸つむぎも終わる。

  私もお前の首をはねなくてすんで、本当に安心しているよ。」

王様はリーズを見て、安心したように言いました。

リーズは王様に悪い事をしたと思いました。

自分は自分の事ばかり考えて、王様の事はちっとも考えていませんでした。

こんな王様とあともう少ししか一緒にいられないと思うと、リーズは悲しくなりました。

 「そうだ、今日、面白いもの見たよ。」

 「なんですか? 王様。」

リーズは明るく聞き返しました。

後一日、王様と一緒にいられる時は楽しくすごそうと、良く考えたのです。

 「今日、狩りに出かけたら、何処からか歌が聞こえてきたんだ。

  歌の聞こえる方に行って見ると、石が積み上がった所があって、その奥に何かが住んでいるようだったんだ。」

 「私はその穴をそ〜っとのぞき込んで見ると、尻尾をもった小さなものが歌を唄いながら、凄い早さで糸車を回していたんだ。」

王様はどうやらあの小人を見たようでした。

リーズは「それで?」と身を乗り出して聞きました。

 「そいつの歌は変わっていてな。」

 『おいらの名前をいってみな。

  トム・ティット・トット!

  おいらの名前を当ててみな。

  トム・ティット・トット!』

  そう自分の名前を歌いながら、小さな糸車をびゅんびゅん回していたんだ。」

王様は笑いながら話しました。

リーズは飛び上がるほど嬉しくなりました。

これでもうあの小人を恐れる事はない、また王様と暮らせる。そう思うと自然に笑顔がこぼれました。


次の日になりました。

リーズは少しだけ考えました。

あの小人に出し抜かれたら、元もこもなかったのです。

朝、あの小人がやって来た時には、困ったような沈んだ顔で麻を渡しました。

小人はそんなリーズの顔を見ると嬉しいのか、いつもより元気に飛び跳ね帰って行きました。

リーズはじっと夕方になるのを待ちました。

そして夕日が西の空を染める頃あの尻尾をもった小人が、つむいだ糸を持ってきました。

リーズが窓を開けると、その小人は大きく口を開けて、

 「さぁ、おいらの名前を言ってみな。」と言いながら入ってきました。

リーズは糸を受け取ると困ったように、

 「ニコラスかしら?」と言いました。

小人は大きく開けた口をもっと大きく開けて、キキキキキと笑いました。

 「違うよ。 さあ、あと残り二回だ。」

小人は燃えるような真っ赤な目でリーズを見ました。

 「だったら、メルビル?」

リーズはおびえたように答えました。

小人は大きな声でカカカカカと大笑いすると、指から鋭い爪を出し、尻尾からも尖ったヤリのようなものを出して、リーズに言いました。

 「違うな、さぁ、これで最後だぞ。」

小人は勝ち誇ったように、ケケケケケケケを笑い続けました。

リーズはそっと息を吸い、そして静かに答えました。

 「お前の名前は、」

 「名前はぁ?」

小人は口から牙を出して問い返しました。

 「トム・ティット・トット。」

リーズは悪魔の名前を言いました。

その名前を聞くと小さな悪魔は、顔をくしゃくしゃにゆがませ、「ギャァァァ〜〜〜!」と悲鳴を上げ、窓の外の闇に消えていきました。


悪魔は消え去りました。

リーズは糸を五かせ持ち部屋から出ると、王様のもとへと走って行きました。

           「トム・ティット・トット。」


「トム・ティット・トット。」はE.ファージョンによって創作児童文学として翻案され、日本では「銀のしぎ」と言うタイトルで岩波書店から石井桃子さんの訳で出版されています。

このお話、一つだけ疑問があります。

次の年はどうしたんだろう・・・?


何事も良く考えましょう。 まだ一年ありますから。


「大工と鬼六。」が翻案なら、そのもとと考えられている外国民話。

 「トム・ティット・トット。」ーイギリス民話<

 「ルンペルシュテルツヘン」 ーグリム童話

 スゥェーデン・ノルウェーでは、教会を建てる巨人と牧師で同型の話があります。


 
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