おやゆびこぞう。

「おやゆびこぞう。」は、小さな子供を主人公にする物語です。

ヨーロッパでは、ドイツのグリム兄弟、イギリスのJ・ジェイコブズ、フランスのシャルル・ペローと再話されていますが、各物語はすこしづつ異なっています。

グリム版(KHM37)は、子供に恵まれない夫婦に親指ほどの大きさの子が生まれ、その子が見せ物小屋の主人に買われて、そこから逃げ出し、冒険をして、無事親元に戻るというストーリー。

J・ジェイコブズ版は、魔術師マーリンが子供のいない夫婦に親指ほどの子を授け、成長して鬼退治ののち、アーサー王の家来になり、さまざまな冒険をすると言うストーリー。

今回はシャルル・ペロー版をリライトしています。

「おやゆびこぞう。」

森にきこりとおかみさんが七人の子供と暮らしていました。

長男はやっと十歳になったばかりで、一番下の子供はやっと七つになったばかりでした。

計算が合わない?おかみさんは双子を三回、そして最後に一番下の子を生んだのです。

その子は、生まれた時に親指ほどの大きさしかなく、七つになった今も小さなままで、あまり口もきかず、みんなから「親指小僧」と呼ばれていました。


きこり夫婦はもともと貧しかったのですが、子供が出来てからますます貧しくなっていました。

その年は作物が出来ず、大飢饉となり、もう、きこり夫婦には子供たちに食べさせる事が出来ませんでした。

 「おまえ、もう子供たちを養っていけないよ。」

きこりはおかみさんに言いました。

 「養えないって、あんた、子供たちをどうするつもりなんだい?」

 「でもおまえ、おまえは、このまま子供が飢えて死ぬのを見ていられるのか?」

おかみさんは黙ってしまいました。

 「明日、子供達を森に連れていくんだ。子供が柴を集めてる間にお前は逃げ帰ってくればいいんだよ。」


親指小僧はお父さんとお母さんの話をベッドの中で聞いていました。

そして一晩、どうしたらいいか考えました。

親指小僧はみんなが寝静まった明け方に外へ飛び出すと、白い小石をたくさんポケットに詰めて、またベッドにもぐり込みました。


朝になって、みんなで最後のパンを食べミルクを飲みました。

そしておかあさんと一緒に兄弟みんなで薪拾いに出かけました。

いつもと違う山に、深く深くに入っていきました。

兄弟達は、初めての所に来たのがうれしくて大はしゃぎで、小枝を拾い、薪のたばを作りました。


ふと気がつくと、お母さんがいません。


兄弟達は大きな声で泣き叫びました。

 「兄さん達、泣かなくていいよ、ボクが家まで連れて帰るからね。」

親指小僧は、森に来る時、ポケットの中の白い石を道々に置いて来ていました。

その後をたどり、家まで帰って行きました。でも、兄弟達は家の中に入っていけませんでした。

お母さんが自分たちを養えなくなって、森に置いていった事をわかっていたのです。


兄弟達は、暗い外で家の中の様子をうかがいました。

家に中ではきこり夫婦がたくさんの食べ物とお金を前に泣いていました。

おかみさんが子供を山に置き去りにして家に帰ると、以前領主様に貸していたお金が返ってきていたのです。

 「もし、このお金が昨日届いていれば、子供を捨てずにすんだのに。

  今ごろあの子達は狼に食べられているよ。」

そう言うと、おかみさんはオイオイ泣き出しました。

子供たちはそれを聞くと大喜びで、「僕たち、ここにいるよ! 狼に食べられてないよ!」と、家の中に飛び込んで行きました。

子供たちがみんな帰ってきたので、きこり夫婦は自分たちのした事も忘れて喜びました。

そして、たくさんある食べ物を食べ、ぐっすりと眠りました。


しばらくするときこり夫婦は返ってきたお金を使い果たしてしまいました。

すると、もうなんの当てもなくなり、また子供を捨てなければいけませんでした。

きこりとおかみさんは、明日の朝、子供たちを山に連れていこうと話しあいました。


この話をまた親指小僧は聞いていました。

明日の朝、早く起きて小石を拾いに行こう。親指小僧は翌朝早くに起きて、外に出ようとしました。

しかし家の戸には鍵がかかっていて外に出られませんでした。

前と同じようにパンを食べミルクを飲みました。

お母さんは今度はみんなにパンを一切れづつ配り、山へ薪拾いに出かけました。

親指小僧は前と同じようにパンをちぎっては道々に置きながら、山へと登っていったのでした。


そして山深く入った所で、またお母さんはいなくなっていました。

兄達は親指小僧のまわりに集まりました。

 「兄さん、大丈夫だよ、来る時にボクのパンをちぎって置いてきたからね。」

でもそのパンくずはありませんでした。小鳥が食べてしまったのです。


子供たちは、急に怖くなりました。

山道はどこに続いているのかわからず、次第に森は暗くなっていきました。

真っ暗な森の中に、風が激しく吹き荒れ、闇の中に狼の声がこだまします。

兄弟達はガタガタふるえながら身を寄せ泣き出しました。

雨がバラバラ降り出し、兄弟は暗闇の中を歩きました。

一人が転ぶとみんな転んで泥だらけになりました。寒さで手も足も痛くてたまりませんでした。

親指小僧は、近くの木に登りました。

遠くの方に灯が見えました。

親指小僧は兄弟を励ましながら、その灯の方へと歩いて行きました。

そして灯のある家に着くと、戸を叩きました。

 「あんたかい?」

優しそうな女の人が出てきました。

親指小僧と子供たちはホッとして、「どうか一晩泊めてください。」お願いしました。

女の人は子供たちを見ると困ったような顔をしました。

 「こまったねぇ、こんな雨の中、追い出すわけにもいかないし、でもねえ、ここは人を喰う鬼の住んでいる家なんだよ。」

親指小僧たちは、ここが人食い鬼の家と聞いて怖くて怖くて仕方ありませんでした。

でも外にいれば狼に、家の中に入れば鬼に喰われてしまうかも知れません。

 「一晩泊めてあげるから、明日の朝になったら逃げ出すんだよ。」

女の人はそう言って子供たちを中に入れました。

そして暖炉の側で子供たちの服を着替えさせ、暖かいミルクとパン、焼いた肉を食べさせてくれました。


暖炉には羊が一匹、丸ごと焼いてありました。

 「それはね、人喰い鬼の食べる羊だよ。」

親指小僧と兄弟達は、鬼はいったいどれだけ食べるんだろう?と怖くなりました。


その時です。戸をガンガン叩く音が聞こえてきました。

 「おい! 帰ったぞ! 早く開けろ!」

人喰い鬼でした。

 「はいよ!すぐ開けるから待っておくれ!」

女の人はそう言うと親指小僧達に小声で、「あのベッドの下に隠れているんだよ。絶対出てきちゃ行けないよ。」と、子供たちをベッドの下に隠し、戸を開けに行きました。


人喰い鬼は家に入るとすぐに食卓の上のぶどう酒をごくごく飲み、「肉の用意は出来てるか?」と聞きました。

 「ああ、あんたの良いように、羊を一匹焼いてあるよ。」と女の人は答えました。

 「うん? 羊の肉か? 俺には生肉の匂いがするんだがな。」

人喰い鬼は、くんくん鼻をならしながら匂いを嗅ぎました。

 「何言ってるんだい。 肉はこの羊の肉だけだよ。」

女の人は慌てて言いましたが、人喰い鬼は、「そうか?」と立ち上がり、あたりを嗅ぎ回りはじめました。

ベッドの下の親指小僧達は生きた心地もしませんでした。

息を殺して、隅の方に小さく固まりました。

 「お昼に明日のために子牛をさばいたから、その匂いじゃないかしら。」

 「いやぁ、その匂いじゃないな。雨に濡れた子供の匂いだ。」

そう言いながら人喰い鬼は、バタンとベッドをひっくり返しました。

子供達は見つかってしまったのです。

人喰い鬼は子供たちを見つけると、嬉しそうに舌なめずりして、子供達の顔をべろりとなめました。

 「ああ、うまそうだ。

  この肉に合ううまいソースを作ってくれないか。」

女の人は慌てて、

 「何言ってんだい? この焼いた羊はどうするんだよ。さばいた子牛はどうすんだよ。」

と、人喰い鬼に問い詰めました。

 「う〜ん、そうだなぁ。

  しかたねぇ、しばらくガマンするか。

  こいつらにしっかり食べさせて、太らせとくんだぞ。」

そう言うと人喰い鬼は、食卓に着くとワインを飲みながら、子供たちを見ては嬉しそうに肉を食べ、いつもより沢山飲んでしまい、人喰い鬼は酔いつぶれてしまいました。


女の人はホッとして、子供たちに沢山ご馳走した後、二階へ連れていってくれました。

二階には大きなベッドが二つあって、一つのベッドには人喰い鬼の娘が七人、眠っていました。

娘達は親指小僧達と同じように、まだほんの子供でしたが、尖ったかぎ鼻と、スキのように鋭い歯を持ち、頭に金の冠をかぶっていました。

女の人は親指小僧達をもう一つのベッドに寝かしつけました。

女の人が一階に降りていくと、親指小僧は隣のベッドに行き、娘達がかぶっている冠を取ってきて、兄弟達にかぶせ、自分たちのかぶっている頭巾を娘達にかぶせました。


夜中になりました。

ギシリ、ギシリと階段を誰かが登ってきました。

あの人喰い鬼が大きな包丁をもってやって来たのです。

そして、親指小僧の寝ているベッドにちかずくと、そっと頭に触ったのです。

 「・・・ふん、大変な事をしでかすところだったわい。」

そう言うと人喰い鬼は娘達の寝ているベッドの方へ行きました。

人喰い鬼は冠にさわって、親指小僧達を自分の娘達と勘違いしたのです。


暗闇の中で、ビシュッ!ビシュッ!っとなにかが飛び散る音がしました。

 「・・・明日は仲間を大勢呼んできて酒盛りだわい。」

人喰い鬼は、そう言い残して、また階段を降りて行きました。

そして、人喰い鬼のいびきが聞こえてくると、親指小僧は兄さん達を揺り起こし、服を着替えて、窓から外へ飛び出しました。そして、雨の上がった夜道を走り続けたのです。


夜が明けました。

子供たちは、やっと自分たちのいる場所がわかり、自分たちの家に走りました。


その頃、人喰い鬼も目を覚ましました。

そして女の人に、「夕べの子供たちの支度を頼むぞ。」と言うと、二人で二階に上がって行きました。

そこには、七人の娘達が咽を切られて死んでいました。

女の人は「ギャー!」と声を上げ倒れてしまいました。


人喰い鬼は、娘達の頭に頭巾がかぶせてあるのを見ると、歯ぎしりして「あの子供らめ! みんなこの口で咽を引き裂いてやる!」と叫びました。


人喰い鬼は「七里の長靴」という魔法の長靴をはくと外へ飛び出しました。

「七里の長靴」は、ひと足で七里を走ると言う長靴でした。

人喰い鬼は、その靴であちこちを飛び歩き、子供たちを探しました。

その音は山々にビュオーン!ビュオーン!と響き渡りました。

親指小僧と子供たちはその音に気がつくと、岩場の下のくぼみに身を隠しました。

そしてじっと人喰い鬼の様子をうかがいました。

人喰い鬼は忙しくあちこちを走り回り、ビュオーン!ビュオーン!と、音を響かせ続けました。

そのうち人喰い鬼は疲れ果てたのか、子供たちの隠れている岩場の上に降りると、そのまま大いびきをかいて眠ってしまいました。


親指小僧はそっと兄弟達を逃がすと、人食い鬼から「七里の長靴」をぬがすとはいて見ました。

するとその魔法の靴は、ぶかぶかの大きさでしたが、あつらえたように小さくなりました。

そしてひと足歩くと七里を飛ぶように駆けたのです。

親指小僧はふと思いつくと、その靴をはいて、人喰い鬼の家に行きました。

そして家の中で泣いている女の人に、

 「旦那さんが盗賊につかまって "金銀を差し出さなければ殺す" と言われています。

  この靴をはいて早くありったけの財宝を受け取ってこい、とおっしゃいました。」

と、話しました。

驚いた女の人は、ありったけの財宝を親指小僧に渡しました。

親指小僧はその財宝を持って家に帰りました。


その後、親指小僧は魔法の「七里の長靴」をはいて、お城で大切な連絡や軍隊の連絡を勤めました。

そしてそのお金で、父親に公職を買い、兄弟仲良く暮らしていったと言う事です。


        「おやゆびこぞう。」


ペロー版の「おやゆびこぞう。」の特徴は人喰い鬼が登場する所でしょうか。

十七世紀を通じフランスは何度も大飢饉に襲われています。

シャルル・ペローが本作を著した1697年のほんの少し前、1693 年にもフランスで大飢饉が起こっているそうです。

この物語は、何百年も語られた昔話というより、その中にいくらかの史実が含まれている、と考えられます。


補記

◇初出。

 グリム版 「拇太郎」(拇を"ゆび"と読んで"ゆびたろう")

       1892年、明治二十五年、雑誌「少国民」掲載

 ペロー版 「小説一寸法師」

       1896年、明治二十九年、雑誌「少国民」掲載

◇シャルル・ペローの原作のタイトルは「Le Petit Poucet」

 「親指トム」は英語圏での名称です。

◇シャルル・ペローCharle Perrault (1628-1703)はアカデミー・フランセーズの一員で、王の建築監視官でした。

 1697年にフランスに伝わる有名な昔話を集め、「ガチョウおばさんのお話 CONTES DE MA MERE L'OYE (過ぎし昔の物語ならびに教訓)」を著しています。

 ペローは 1703年の5月15日から16日の夜に自宅で亡くなりました。

◇現在、絵本では三者のものがそれぞれ出版されています。


 
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