お話歳時記

聞耳頭巾。

  前回の「狼の眉毛。」はその眉毛をかざしてみれば、人の本性が見える、というお話でしたが、今回の「聞耳頭巾。」は、動物の声が聞こえる、というお話です。

「聞耳頭巾。」

  奥州のある所に、彦という男がいました。
  貧乏な暮らしでしたが、毎日氏神のお稲荷様にお参りし仕事に励んでいました。いつか生魚でもお供えしたいと念じていましたが、そんな願いもかなわぬまま、ただ歳をとり、彦も爺さになっていました。
「氏神様、氏神様、おらはこの歳まで貧乏で、氏神様に生魚をお供え出来ませんですた。これから先もお供えする事は出来ねぇです。そのかわりに、どうぞおらを食べてくだせぇ。」
彦じいさんがそう祈ると、どこからともなく声が聞こえてきました。
「爺や、爺や。 そんな事は心配せずとも良い。お前さんが仕事に励んでも、難儀している事はよう知っておる。お前にこれを授けよう。」
その声が終わると、不思議な事に空からふわりと頭巾が落ちてきました。
彦じいさんは頭巾を手に取りました。
「それは "聞耳" という宝の頭巾じゃ。それをかぶると動物や鳥や木や草やいろんなものの言葉がわかるようになる。さぁ、それをかぶっていろんな声を聞いてみなさい。」
「へい、ありがとうござんした。」
彦じいさんはぺこりと頭を下げて頭巾をかぶり、村の方へ歩いて行きました。

  しばらく歩くと川の側に大きな木がありました。チチチという鳥の鳴き声が、人の言葉のようにわかりました。
「やぁ、しばらくだったな、森の長嗚きどん。」
「あぁ、しばらくじゃった、浜の大羽どん。 景気はどうじゃ?」
「だめじゃのう。 人間の漁が良くなくての。ここに魚がおるぞと言っても、人間にはわからぬ。」
「うむ、人間は何もわかっておらんからの。ほれ、そこの川にある踏石。その石が黄金だとはまるっきり知らぬ。いつも教えてやっておるのだがの。」
川の踏石が黄金? 彦じいさんは川へ行き踏石を探しました。
「これかの?」
おじいさんが洗ってみるとコケの下から黄金色の金塊が出て来ました。
「おお、これで氏神様に生魚をお供え出来る。」
彦じいさんは金塊を懐に入れて歩き出しました。

  「庄屋様んトコの娘御はもう命がながくないのぉ。」
空の上から声が聞こえてきました。
「なんじゃぁ?」
彦じいさんが空を見上げるとカラスが二羽鳴いていました。
「なんで病気になられたんじゃろうのぉ。」
「ようは知らんが、ヒゲのばばさんが知っておるそうじゃ。」
「ほう、聞いてみようかの。」
そう言うと一匹のカラスが庄屋様のお屋敷に向かって飛んで行きました。
「こりゃぁ、大変じゃ。」
彦じいさんは庄屋様のお屋敷に向かって走りました。しかし、おじいさんの足では早く走れず、カラスにどんどんはなされ見失ってしまいました。

  「ふぅ。」
彦じいさんは庄屋さんのお屋敷につきましたが、ヒゲのばばさんはどんな動物なのかわかりませんでした。彦爺さんは門番の男に聞きました。
「すんませんなぁ、庄屋さんとこのお嬢ちゃんは病気か何かで?」
「ああ、お嬢さんは二、三日前から具合が悪くてなぁ、お医者に診てもろうたが、なんもわからん。」
「お譲ちゃん、やっぱり悪いんですかの。」
彦じいさんは困ってしまいました。
「ここにヒゲのばばさんという、犬か猫か何かおらんですかな?」
「ヒゲのばばさん? おらんのう。」
「そうですか。」
彦じいさんは庄屋さんのお嬢ちゃんが心配で、聞耳をかぶって塀にもたれました。
「馬の吉左はまだ足が治らないのかな。」
「うん、まだひづめの間の石が取れないみたいなんだ。」
「彦左がいくら鳴いても人間にはわからんからなぁ。」
にわとりの声が聞こえました。そうじゃ、これじゃ。彦じいさんは庄屋さんの所に行きました。
「庄屋様、馬の吉左の足は治りましたかの?」
「いいや、