![]() |
![]() |
![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
十月ー亥の子突きと動物のお話。 |
|
| 聞耳頭巾。 | |
| 前回の「狼の眉毛。」はその眉毛をかざしてみれば、人の本性が見える、というお話でしたが、今回の「聞耳頭巾。」は、動物の声が聞こえる、というお話です。 |
|
| 「聞耳頭巾。」 | |
| 奥州のある所に、彦という男がいました。 貧乏な暮らしでしたが、毎日氏神のお稲荷様にお参りし仕事に励んでいました。いつか生魚でもお供えしたいと念じていましたが、そんな願いもかなわぬまま、ただ歳をとり、彦も爺さになっていました。 「氏神様、氏神様、おらはこの歳まで貧乏で、氏神様に生魚をお供え出来ませんですた。これから先もお供えする事は出来ねぇです。そのかわりに、どうぞおらを食べてくだせぇ。」 彦じいさんがそう祈ると、どこからともなく声が聞こえてきました。 「爺や、爺や。 そんな事は心配せずとも良い。お前さんが仕事に励んでも、難儀している事はよう知っておる。お前にこれを授けよう。」 その声が終わると、不思議な事に空からふわりと頭巾が落ちてきました。 彦じいさんは頭巾を手に取りました。 「それは "聞耳" という宝の頭巾じゃ。それをかぶると動物や鳥や木や草やいろんなものの言葉がわかるようになる。さぁ、それをかぶっていろんな声を聞いてみなさい。」 「へい、ありがとうござんした。」 彦じいさんはぺこりと頭を下げて頭巾をかぶり、村の方へ歩いて行きました。 しばらく歩くと川の側に大きな木がありました。チチチという鳥の鳴き声が、人の言葉のようにわかりました。 「やぁ、しばらくだったな、森の長嗚きどん。」 「あぁ、しばらくじゃった、浜の大羽どん。 景気はどうじゃ?」 「だめじゃのう。 人間の漁が良くなくての。ここに魚がおるぞと言っても、人間にはわからぬ。」 「うむ、人間は何もわかっておらんからの。ほれ、そこの川にある踏石。その石が黄金だとはまるっきり知らぬ。いつも教えてやっておるのだがの。」 川の踏石が黄金? 彦じいさんは川へ行き踏石を探しました。 「これかの?」 おじいさんが洗ってみるとコケの下から黄金色の金塊が出て来ました。 「おお、これで氏神様に生魚をお供え出来る。」 彦じいさんは金塊を懐に入れて歩き出しました。 「庄屋様んトコの娘御はもう命がながくないのぉ。」 空の上から声が聞こえてきました。 「なんじゃぁ?」 彦じいさんが空を見上げるとカラスが二羽鳴いていました。 「なんで病気になられたんじゃろうのぉ。」 「ようは知らんが、ヒゲのばばさんが知っておるそうじゃ。」 「ほう、聞いてみようかの。」 そう言うと一匹のカラスが庄屋様のお屋敷に向かって飛んで行きました。 「こりゃぁ、大変じゃ。」 彦じいさんは庄屋様のお屋敷に向かって走りました。しかし、おじいさんの足では早く走れず、カラスにどんどんはなされ見失ってしまいました。 「ふぅ。」 彦じいさんは庄屋さんのお屋敷につきましたが、ヒゲのばばさんはどんな動物なのかわかりませんでした。彦爺さんは門番の男に聞きました。 「すんませんなぁ、庄屋さんとこのお嬢ちゃんは病気か何かで?」 「ああ、お嬢さんは二、三日前から具合が悪くてなぁ、お医者に診てもろうたが、なんもわからん。」 「お譲ちゃん、やっぱり悪いんですかの。」 彦じいさんは困ってしまいました。 「ここにヒゲのばばさんという、犬か猫か何かおらんですかな?」 「ヒゲのばばさん? おらんのう。」 「そうですか。」 彦じいさんは庄屋さんのお嬢ちゃんが心配で、聞耳をかぶって塀にもたれました。 「馬の吉左はまだ足が治らないのかな。」 「うん、まだひづめの間の石が取れないみたいなんだ。」 「彦左がいくら鳴いても人間にはわからんからなぁ。」 にわとりの声が聞こえました。そうじゃ、これじゃ。彦じいさんは庄屋さんの所に行きました。 「庄屋様、馬の吉左の足は治りましたかの?」 「いいや、右の前足が痛いらしくての、治らんのじゃ。」 「わしが診てもいいじゃろかの?」 「爺さならなにかわかるかもしれん、診ておくれ。」 彦じいさんは馬の吉左の足を診ました。そして、蹄鉄を外すとひづめの間から石を取り外しました。吉左は足の痛みが取れたのか、嬉しそうに走り出しました。 「おお吉左、足が治ったか。」 庄屋様は嬉しそうに言いました。 「庄屋さん、お嬢ちゃんが良くないと聞いたんじゃが。」 「うむ、半年くらい前から具合が悪くての、三日ほど前から寝込んでしもうたのじゃ。」 「わしに診させてもらえんじゃろうか?」 「こちらから頼もうと思うておったところじゃ。」 庄屋様は彦じいさんを、娘の所に連れて行きました。 庄屋様の娘はさくらと言う名前でした。春間近と言うのに、娘の顔は青白く、息も力がありませんでした。カラスの言う通り、もう長くない様子でした。彦じいさんは庄屋様に聞きました。 「庄屋さん、ヒゲのばばさんと言う名前の、何か犬か猫か、何か知りませんか?」 「ヒゲのばばさん? 知らんのう。」 「庄屋様にもわかりませんか。」 彦じいさんは少し考えると娘に言いました。 「お嬢ちゃん、爺が必ず病気の元を見つけて来ますけぇの。」 彦じいさんはそう言うと、聞耳をかぶって、庄屋さんの家の中を歩きはじめました。 にわとりの声が聞こえました。彦じいさんはにわとりの話を聞きました。 「やはり出られんのかの?」 「うむ、ヒヨコの頃なら出られたかも知れんが、もう大きくなりすぎておる。あの子はこのまま床下で一生暮らす事になるのかの。」 彦じいさんは縁の下で飼われているにわとりを見ました。縁の下と床下の間の空気窓から、何やらのぞいています。庄屋さんに話して、畳を上げてもらうと、床下に若いにわとりが一羽、入り込んでいました。 「おお、こんな所に入っておったのか。」 庄屋さんはにわとりを床下から出してやりました。 天井裏から、チューチューねずみの鳴く声が聞こえてきました。彦じいさんはそっとその声を聞きました。 「やはり水は増えているのか?」 「うん、もうすぐ溢れて蔵の中に入ってしまいそうじゃ。」 「困った事じゃのう。それでは蔵の米が傷んで腐ってしまう。」 どうやら蔵の側に水が溜まっていて中に流れ込みそうになっているようでした。彦じいさんは庄屋さんに話して調べてもらいました。すると蔵の後にポッカリ穴が開いていて、そこに水が溜まっていたのでした。 「おお、米が台無しになるところじゃった。」 庄屋さんは急いで穴を埋めさせました。 犬がワンワンなきました。彦じいさんは「なんじゃろう?」と犬の方へ行きました。 「旦那さん、旦那さん、塀が崩れててイタチが入ってくるよ。」 庄屋さんは犬を撫でました。 「太郎はこうやって私を見るとなくんですよ。」 彦じいさんは、「庄屋さん、太郎は塀に崩れた所があって、そこからイタチが入ってくると知らせてるんですよ。」と、言いました。 庄屋さんが塀を調べると、草の向こうの塀が崩れていました。 「これは治さんといかんの。」 こうして、庄屋さんのお屋敷のあちこちで知らずにいた事や悪い所を治しましたが、肝心のヒゲのばばさんはわかりませんでした。 彦じいさんは困ってしまいました。これでは庄屋さんのお嬢ちゃんがなおせません。 「困ったのぉ、誰かヒゲのばばさんを知らんかのぉ。」 ひひんと馬のいななく声がしました。 「爺さ、爺さ。 ヒゲのばばさんは枝垂れ桜の木じゃよ。夜になればばばさんは目を覚ますよ。」 馬の吉左でした。 「おお、これでお嬢ちゃんの病のもとがわかるかもしれん。ありがとうの。」 吉左はひひんと答えました。枝垂れ桜は娘さんの寝ている部屋の前にありました。彦じいさんと庄屋さんは縁側で夜になるまで待ちました。辺りが暗くなり風が吹いてきました。垂れ下がった枝がゆらゆら揺れ、葉がさらさらと声を出しはじめました。 「爺さ、爺さ。」 「あぃ、ヒゲのばばさんかな?」 急に彦じいさんが話し出したので、庄屋さんは誰と話しておるのじゃろう?と、きょときょとしました。 「あぁ、ばばじゃ、わしがヒゲのばばじゃ。」 「ばばさ。 ここのお嬢ちゃんがなんで病気になったか、知っておるかの?」 「ああ、知っておる。 爺さ、その子を助けておくれ。」 「ああ、そのつもりじゃとも。」 庄屋様は彦じいさんをじっと見つめました。 「その子はの、ばばの根元でいつも鞠歌をうとうてくれた子じゃ。また元気な声で、鞠歌がききたい。」 「あぁ、あぁ。 元気になったらうとうてくれるよ。」 「爺さ、爺さ。去年母屋の屋根を葺き替えた時、蛇を巻き込んでしもうたのじゃ。その蛇が苦しい苦しいとの、恨んで恨んで、お嬢ちゃんを苦しめておるのじゃ。はよう蛇を助け出しておくれ。」 「あぁ、わかった。 すぐ、助け出そう。」 彦じいさんは庄屋さんに蛇の事を話しました。庄屋さんはすぐに篝火を焚き、母屋の屋根の萱を降ろしました。束ねた萱の中から今にも死にそうな一匹の蛇が出てきました。庄屋さんはその蛇に水をやり食べ物をやり元気にしてはなしてやりました。すると庄屋さんのお嬢さんは、青白い顔が見る間に顔色が桜色になり、布団から起き上がれるようになりました。そして枝垂れ桜が咲く頃にはお嬢さんはもと通り元気になりました。彦じいさんは庄屋さんから沢山のお礼をいただきました。 彦じいさんは生魚を買って氏神様の御稲荷さんにお参りに行きました。鳥や牛や馬や、犬や猫が、話しかけてきました。枝垂れ桜のそばで鞠歌を歌うお嬢さんの声が聞こえてきました。その声を聞くと、彦じいさんは幸せな気持ちになるのでした。 「聞耳頭巾。」 |
|
| 「聞耳頭巾。」には、いくつかの変型があり、「聞耳」を御稲荷さん・きつねに授けられる、と言うものと、竜宮城でお土産にもらう、というものを見つけました。 「聞耳」を使って何をするのか?というと、石が黄金である、というもの、庄屋の娘、または庄屋さん本人の奇病を治す、その理由が蛇、または木の切り株、となっています。たぶん他にもあるんじゃないでしょうか? 「聞耳」にしても「狼の眉毛」にしても、共通して「自分を食べてください。」と願う所が意味深いようです。動物の超自然的な力を身につける事、一種の変身を意味しているように思います。 単純に犬や猫と話せたら面白いと思うんですが、今いる世界が、がらりと変わってしまうかも知れません。 |
|
| ◆補記 | |
| ◇「聞耳頭巾。」の元の話は、「聴耳」「ホキ内伝」となっています。 が、「ホキ内伝」という本が確認出来ませんでした。 |
|