お話歳時記

證誠寺のたぬき。

  「「証誠寺の狸囃子」は、千葉県木更津市にある證誠寺に伝わる伝説「狸囃子」で、成立年は不明、「分福茶釜」(群馬県館林市)や「八百八狸物語」(愛媛県松山市)と日本三大狸伝説の一つとされています。

「證誠寺のたぬき。」

  昔、千葉県木更津市にある證誠寺のあるあたりは、鈴森と呼ばれる、竹薮が右へ左へ、うっそうと生い茂り、昼日中でも薄暗い所でした。

  いつの頃からか、このあたりには、夜になると一つ目小僧やろくろっ首など、恐ろしい化け物が現れて、通りがかった村人を驚かせるようになり、證誠寺には、いつの間にか誰もいなくなり、荒れ果てた寺となって、化け物の住み家となったのでした。

  ある時、西国から三味線を持った了然(りょうねん)というお坊さまがやって来ました。

  了然は、寺に入ると仏様のホコリを払い、クモの巣をとって、何とか寺に住めるようにしましたが、それでも、まだ、床板は割れ、障子はやぶれ、屋根には穴が開いていたのです。

  その夜の事です。

   了然は持ってきた大根を、囲炉裏に架けた鍋で煮ているといつのまにか囲炉裏の向こう側に子供のようなものが座っていました。

  「うむ。」
   了然は、じっとその子供のようなものを見つめました。 その子の顔には、真ん中にまぶたの無い大きな目がひとつ、あるだけで、じっと了然を見つめていました。

  「うむ。」
   了然はそのまま鍋をかき回しました。 一つ目の小僧さんは鍋を見ると、そのまま横を向いてまたじっとしていました。 すると、いつの間にか、小僧さんの隣に女の人が座っていたのです。

  「う〜ん。」
   了然はこの女もこぞうと同じ物の怪か?と思いました。 見た所、なんのおかしな所もない。 しっぽでもあるかと思いましたが、それも見えぬ。さて、どのようなものじゃろうか?
   了然が考え込んでいると、女はニーッと笑い、そのまま頭が上へとあがって行きました。 首が骨の無い腕のようにクネクネとうごめき、女の頭が宙を泳いだのです。そして了然の前まで来るとじっと了然を見つめつづけました。

  「うむ。」
   了然は、女がやはり怪物であったかと納得がいくと、鍋の大根を箸でつくと、味噌につけて食べはじめました。

   どうした事か、一つ目小僧もろくろっ首も、鍋をじっと見つめると、いつの間にかフッと消えていなくなってしまいました。 それから寺のまわりで大きな音があちこちで響きました。 メリメリと木の裂ける音、竹の割れる音、ゴロゴロと岩が転がる音、屋根の上からは、大きな鳥の羽音がバサバサッ、バサバサッと聞こえました。

   了然はしばらくその音を聞いていたのですが、「なんじゃ、ただやかましいだけじゃの。」と一言、言うとそのまま、ごろりと横になると、寝てしまいました。

  その夜、一晩中、いろんな音が響いていたのですが、朝が来ると、いつの間にか、やんでいたのでした。

  次の一日、了然は、障子を張り替えたり、床や屋根を修理したり、せっせと寺を直し、夜が来る頃には、なんとか寺らしくなりました。障子の中にほんのりあかりが灯り、了然は大根を食べながら、持ってきた三味線をはじいて端唄を唄いました。

  夜が更けて、突然、大きな太鼓の音がなりました。

  ドンドコ、ドンドコ、ドンドコドン。   
  そして小さな太鼓の音が鳴りはじめました。
  ポンポコ、ポンポコ、ポンポコポン。   
  ポンポコ、ポンポコ、ポンポコポン。   
  いくつもいくつも太鼓の音が続いたのです。

  了然は驚いて起きると、そっと障子の外を見ました。 すると、まだ草茫々の庭に、大きな狸が一匹、そして何十匹もの狸が、お腹をポンポコ、打ち鳴らしていたのです。

  「ふむ、昨日の化け物も、奇妙な音も、こやつらの仕業じゃったか。」

  了然は三味線を取ると、ジャラン、ジャランと演奏し始めました。 腹づつみの音に合わせてジャラジャラと、はずしてジャラジャラジャンと、高く低く、大きく小さく、三味線を鳴らしたのです。

  すると、狸達は三味線に遅れまいと、ポンポコポンポコ調子を合わせてきます。

  ポンポコ、ポンポコ、ポンポコポン。   
  ポンポコ、ポンポコ、ポンポコポン。   
  高く低く、大きく小さく、腹づつみを打ち鳴らしたのでした。

  「これは面白い。」

  了然は狸の太鼓と一緒に三味線を鳴らし続けました。 狸達は了然に負けまいとするのか腹づつみを打ちながら、クルクルと踊り続け、一晩中、月夜の下で、踊りと音楽の合戦が続いたのでした。 了然は楽しくて仕方ありませんでした。 よし、狸達が充分踊れるよう、庭を掃除しておいてやろう。 そうして、また一晩、また一晩と、了然と狸の歌合戦は続いたのです。

  ところが四日目の晩、狸達は現れませんでした。

  了然は三味線を持ったまま一晩待ち続けたのですが、朝になってもついに現れませんでした。

  「どうしたのじゃろう?」

  了然は、狸達を探しました。すると、竹薮の奥に、大きな大きな狸が、大きなお腹を破って息絶えているのを見つけました。

  「ああっ。」

  了然はすまん事をしたと思いました。 ただ、人を驚かそうと思っただけ。人騒がせかもしれんが、命とひきかえにするほどのものではない。 了然はその大狸をねんごろに弔いました。

  それから證誠寺では、ぱったり、怪しい出来事は起こらなくなりました。

  ただ、明るい満月の夜には、どこからか、ポンポコ、ポンポコと太鼓の音が聞こえてくる事があるそうです。

       「証誠寺のたぬき。」

  この伝説を元に童謡『証城寺の狸囃子』を詩人の野口雨情が作詞、中山晋平が作曲し、1924年(大正13年)に児童雑誌『金の船』で発表しました。 童謡のタイトルを「証城寺」と違う漢字にしてあるのは、童謡の舞台が同寺院をモチーフとした架空の寺院としているためだそうです。

  千葉県木更津市證誠寺境内には「狸ばやし童謡記念碑」などがあり、毎年秋には狸の供養として狸まつりが行われています。

  1   しょう しょう 証誠寺   
     証誠寺の庭は        
     ツ ツ 月夜だ       
     みな出て来いコイコイ    
     おいらの友だちゃ      
     ポンポコポンのポン     
  2   負けるな 負けるな     
     和尚さんに負けるな     
     来いコイコイ 来いコイコイ 
     みな出てコイコイコイ    
  3   しょう しょう 証誠寺   
     証誠寺の萩は        
     ツ ツ 月夜に花ざかり   
     おいらは浮かれて      
     ポンポコポンのポンポンポン 

◆ 補記 ◆

  ◇證誠寺
  千葉県木更津市。たぬきばやしの伝説の解説、行事案内
    http://www.shojoji.net/

九月のお話。